朝日が眩しい。すっかりしわくちゃになったシーツの中で目が覚めた
スッキリとした目覚めとは言い難い
昨晩の行為が尾を引いてかまだ少し、だるいようだ。
「んん…ジャック…」
隣で寝ているであろう人物の体温を求め布団の中で手を伸ばす。
まどろみの中ふつふつと甦ってくる昨晩の記憶に、思わず名を呼んだのに
「…」
冷えたシーツの感触で一気に白けた。
* * *
いつものようにジャックは向かいのカフェに足を運ぶ
「ジャック!いつものお待ちどうさま」
とびきりの笑顔とウェイトレス服に不釣合いなガニ股(直さないのかアレ)で
店員のステファニーはジャックにコーヒーを差し出す。
例のごとく一杯3千円もするブルーアイズマウンテン…
「うむ」
ジャックはまず熱いうちに淹れたての香りを楽しむとゆっくりと珈琲を口にする。
ハリウッドスターも顔負けなジャックのそれはまさしく映画のワンシーンの様
ステファニーはたまらず黄色い声をあげて悶えた
「あ〜っもう!ジャックってばやっぱりカッコイイ!」
そこへすかさず横のテーブルに座っていた客が声をあげる
「当〜然なんだから!ジャックは私のキン「ちょっとカーリー!アトラス様があなたの何よ」
「もおー!どっから湧いて出たのよ二人とも!」
――また始まった…
いつの間にかその場に(客のふりをしてジャックを張っていたと思われる)新聞記者のカーリー、そして治安維持局の狭霧が加わり
ジャックを巡る乙女三人の大バトルが勃発する。
これもすっかり見慣れた日常風景だ
ジャックはとにかくモテるので、常に周りには誰かがいたし
ジャックもそれを煩わしくは思っていないためか、彼女たちがベタベタと纏わり付いてこようが一蹴するなんてことはしない。
その様子を向かいのポッポハウスから見ていたクロウは溜め息をつく
俺も一緒に溜め息をついた。
「あいつはマジでいい加減にさせないとダメだな!働きもしねえで毎日毎日クソ高いコーヒーに女とくっちゃべってばっかりじゃねえか」
「ああ…だが、ジャックも合った仕事が見つからなくて、それで」
「あーもう、甘いぞ遊星っ!お前からもビシッっと言ってやりゃあ…おっと、いけね!もう行かねえと」
クロウは話の途中で何気なく時計を見上げるとそそくさと配達に出ていってしまった。
広場を抜けていくブラックバードを見送っていると、つい先程まで騒々しかったカフェの前がいつの間にやら静かになっているのに気がつく。
今日はどの女性だろう
よせばいいものをテラスに目線を戻すとさっきまでいた三人のうち二人は姿をけしており
新聞記者がジャックと二人、カフェを後にするのが見えた。
実を言うとこの日常こそ俺にとっては非常に癪な光景で溜息と日々溜まるストレスの原因なのだが
見ずには、ジャックの隣にいる女を確認せずにはいられないのだ。
ジャックは俺と所謂そういう関係になった後でも
平気で俺の前で女と腕を組んで歩くし、時には二人きりで出掛ける事もある
「キングだから、か……」
お前はどういうつもりでこんな事を続けてるんだろうな
俺がどんな気持ちでいるのか知ってか、知らずか俺のほうを見向きもしないで
広場を出てこれから二人はどこへ向かうのだろう?
どうやら相当嫉妬しているらしい二人の後ろ姿を見ながら随分とイラだっている
クールだストイックだのとよく言われるが本当は違うんだと思う
ジャックの言う通りだ。すぐ熱くなるし
今だってジャックのもとへ走ってジャックは俺のものだって公園中の人間に知らせたい
昨晩だってあんなに愛し合っていたんだとジャックの隣を陣取っている女に赤裸々に暴露したい
そうだ記事にでもなんでもしたらいい
ジャックが俺にした事全てを詳細に列挙して…
(…ばかばかしいな)
まるで嫉妬に狂う女だ!
これでは毎日喧嘩をしてる彼女達と変わらないではないか
俺は、違う。
イラだちを抑えながら自分ひとりになってしまったこの場から早く離れたくて
薄暗いガレージの中へ引っ込むとさっさと自分の仕事を再開する
別にいいんだ。
昼間どんなにジャックが遠くに行っても、夜になれば必ず帰ってくる。
もう、どこにも行きはしないと毎晩毎夜囁いてくれるんだ…。
そんなことを言い聞かせながら一心不乱にキーを叩き続けた
そして昼間の暖かかった広場はすっかり涼しくなる
ジャックはその晩帰ってはこなかった